ウイルスとは、何ですか?生き物ですか? -1.ウイルスの大きさ

後で述べる巨大ウイルスは別として、古典的なウイルスの大きさは、20nm-300nm (ナノメータ) ほどです。1nmは10-9 m = 10-6 mmです。つまり、1ナノメータは1mm (ミリメータ)の100万分の1です。インフルエンザウイルスは、約100 nmほどです。大きいものでは、口唇ヘルペスや帯状疱疹を起こすヘルペスウイルス (150nm-200nm) があり、小さいものではポリオウイルス (ピコルナウイルス科、27-30nm) などがあります。

インフルエンザウイルスは、そのスパイクであるヘマグルチニンを介して宿主細胞のシアル酸を含むレセプター(受容体)に結合します。図1には、ニワトリ赤血球膜のレセプターにインフルエンザウイルス粒子がびっしり吸着しているところを示しています。以前、走査型電顕を用いて鈴木康夫が撮影しました。
ニワトリ赤血球は、ヒトの赤血球 (約7.5μm) より若干大きく12-15μmで、細胞内に核があります。写真では、1個の赤血球表面に数100個のインフルエンザウイルスが吸着しています。これからインフルエンザウイルスの大きさは、約0.1μm (マイクロメータ、1/10,000mm、1万分の1mm) であると推定できます。1μm=1,000nm 〈ナノメータ〉ですので、インフルエンザウイルスの大きさは、およそ100nmと推定されます。インフルエンザウイルスは、このように、多くは、球状、楕円形をしていますが、ひも状のものも観察されています (文献2-4)。
注意していただきたいところは、ニワトリ赤血球がウイルスを介してくっついているところが観察されています(矢印)。これは、インフルエンザウイルスにより、赤血球が凝集を起こしているためです。通常、どの赤血球も、ばらばらで凝集を起こすことはありませんが、低温でインフルエンザウイルスと混ぜますとすぐに赤血球同士がくっついて、凝集してしまいます。この現象は、いつか詳しく、解りやすく、述べますが、赤血球膜にあるシアル酸という糖を含むレセプター(受容体)にウイルスが特異的に結合している証拠です。この現象は、インフルエンザウイルスの宿主への感染機構を解明するうえで非常に重要な結果です。

インフルエンザウイルスの電子顕微鏡写真を示しました (図2)。
A、B型インフルエンザウイルスは、宿主細胞由来の脂質二重膜 (エンベロープ, envelopeと呼ばれます)をかぶっており、そこに埋め込まれた2種類のスパイク、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼを持っています。写真では、とげの様に見えるのがスパイクです。写真は、京都大学の野田岳志先生からのご提供であり、日本ウイルス学会の掲載許可をいただいています。インフルエンザウイルスは、そのスパイクタンパク質であるヘマグルチニンを介して宿主細胞のシアル酸を含むレセプター(受容体)に結合し、細胞に侵入していきます。つまり、ヘマグルチニンスパイクは、ウイルスが宿主細胞にくっつき、中へ侵入するうえで必須の役割を果たしています。
一方、ノイラミニダーゼスパイクは、レセプターであるシアル酸含有糖鎖末端にあるシアル酸を切り離す酵素で、細胞内へ侵入したウイルスが効率よく増殖したり、最終的に子供のウイルスが宿主細胞膜をかぶって出芽していくうえで必須の役割を果たします。インフルエンザウイルスが効率よく宿主で増殖、伝播するうえで、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼの活性バランスが重要であることも分かっています (5)。
文献)
2. Calder LJ, Wasilewski S, Berriman JA, Rosenthal PB. Structural organization of a filamentous influenza A virus. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Jun 8;107(23):10685-90.
https://doi.org/10.1073/pnas.1002123107 Epub 2010 May 24. PMID: 20498070; PMCID: PMC2890793.
3. Vijayakrishnan S, Loney C, Jackson D, Suphamungmee W, Rixon FJ, Bhella D. Cryotomography of budding influenza A virus reveals filaments with diverse morphologies that mostly do not bear a genome at their distal end. PLoS Pathog. 2013;9(6):e1003413.
https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1003413. Epub 2013 Jun 6. PMID: 23754946; PMCID: PMC3675018.
4. Dadonaite B, Vijayakrishnan S, Fodor E, Bhella D, Hutchinson EC. Filamentous influenza viruses. J Gen Virol. 2016 Aug;97(8):1755-1764.
https://doi.org/10.1099/jgv.0.000535. doi: 10.1099/jgv.0.000535. Epub 2016 Jun 30. PMID: 27365089; PMCID: PMC5935222.
5. 鈴木康夫:「インフルエンザウイルスのシアロ糖鎖生物学―鳥インフルエンザウイルスのヒト適応性変異の分子基盤」 日本生化学会誌、第87巻、第3号, 348-361, 2015