
抗ウイルス製剤開発
細胞表面のタンパク質や脂質には数個〜十数個の糖分子がつながった糖鎖が結合していて、その末端は多くの場合に糖の一つであるシアル酸になっています。一方、多くのウイルスは、表面のタンパク質が細胞のシアル酸糖鎖と親和性を持つように進化してきました。
そのために、細胞表面の糖鎖は本来は細胞間の接着やシグナル伝達、細胞の分化や免疫機構など細胞の働きに重要な役割を持っていますが、ウイルスが細胞に感染するための足がかりになってしまいます。ウイルスによって標的とするシアル酸糖鎖に若干の違いがありますが、同じ種類のシアル酸糖鎖物質が細胞以外に存在すると、シアル酸糖鎖物質がウイルス表面のタンパク質に結合して、ウイルスが細胞に感染できなくなります。
このことを利用すると、シアル酸糖鎖物質をいろいろなウイルスの感染を防止する抗ウイルス剤として用いることができます。シアル酸糖鎖物質は母乳や牛乳、鶏卵やツバメの巣、ローヤルゼリーなどに多く含まれますが、野菜などの植物には含まれません。
当研究所では、鶏卵あるいはツバメの巣から安全が確認されている方法で種類の異なるシアル酸糖鎖物質を高収率で抽出する方法を開発し、ヒトインフルエンザあるいは鳥インフルエンザの感染を予防する製剤や、それを配合して人のインフルエンザウイルスの感染を抑制するガムに展開しています。
インフルエンザウイルスが蔓延する冬季やできるだけ感染したくない受験シーズンには、人で混雑する環境でもガムを噛むことでインフルエンザに罹ることを抑制できます。鳥インフルエンザについては、季節に関わらずひとたび感染があると大量の鶏を殺処分することになるので、養鶏場等でシアル酸糖鎖物質を適切に使用することで鳥インフルエンザウイルス感染の予防につながります。