ウイルスとは、何ですか?生き物ですか? -2.巨大ウイルス
近年、ウイルスの常識を覆すような大きさと構造を持つ巨大ウイルス (giant virus) と呼ばれるウイルスが発見されています。今回は、この巨大ウイルスについての最新の知見です。
「ウイルスは小さくて単純なもの」という従来の常識を覆し、ウイルスの定義そのものを見直す必要があることが明らかになっています。
最初に発見された巨大ウイルスは、原生動物のアメーバ(Acanthamoeba polyphaga)から見つかり、フランスのグループ (Raoult D.ら) により、2003年、アメリカの科学誌、Scienceに発表されました (1,2)。このウイルスは、細菌のようにグラム染色で染まる性質から、「微生物を模倣する(mimicking microbe)」という意味で「ミミウイルス(Mimivirus)」と命名されました。ミミウイルスのグラム染色性は、ミミウイルスが持つ外部の繊維状構造がグラム染色を保持する性質を持つためと考えられています。当初このウイルスは、細菌と誤認され、分離されたイギリスの地名 (Bradford) に因んで、「Bradfordcoccus」と名付けられていましたが、後の研究でウイルスであることが判明し、「ミミウイルス(Mimivirus)」と命名された経緯があります。
一般的なウイルスのサイズは約20〜300ナノメートル(nm、1mmの1/100万)ですが、ミミウイルスは直径約400ナノメートルのカプシドを持ち、表面の繊維を含めると約750ナノメートルに達します。そのゲノムサイズは約1.2megabase(120万塩基対)に達します(3)。この発見はその後の「巨大ウイルス研究」(パンドラウイルス、マルセイユウイルス、ピソウイルスなど)への道を開くことになりました。
ミミウイルスは2本鎖のDNAを持ち、それに含まれる遺伝子数は、900~1200とされています。この数は、培養可能な最小の生物と位置づけられているマイコプラズマ遺伝子数、約525 (0.58megabase、メガ塩基対) を遥かに凌ぐものであり、翻訳関連遺伝子の一部 (tRNA合成酵素遺伝子) も持っているとされています。しかし、生物である細菌や細胞が持つ、リボゾームおよびフルセットの翻訳関連遺伝子は持たず、自立してタンパク合成は出来ません。
現在の分類では、ミミウイルスにはいくつかの種 (Species)(代表種:Acanthamoeba polyphaga mimivirus)があり、Mimivirus 属 (Genus)、Mimiviridae 科 (Family) に属しています。宿主は、アカントアメーバ(Acanthamoeba)です。
2014年にシベリアの永久凍土から発見されたピソウイルス (Pithovirus) 科(Pithoviridae) のウイルスは、これまでに知られている中でも最大級に大きく、長さが最大2.5マイクロメートル (μm)、直径が0.9μmの縦長楕円体のものが報告されています (4) 。これは、光学顕微鏡で見える大腸菌 (Escherichia coli) に匹敵する大きさです、大腸菌の大きさは、通常 長さ約2~3 µm、幅約0.5~1.0 µm とされています。宿主は、ミミウイルスと同じアカントアメーバ(Acanthamoeba)です。
これまで見つかっている巨大ウイルスのヒトへの病原性は確認されていませんが、ヒトの組織、特に肺炎患者における存在や血清抗体の検出はいくつか報告されています (5,6)。上記、巨大ウイルスに関する報告は、これまでの古典的なウイルスの特徴を見直す必要性を与えるものです。
我々の地球には、いろいろなウイルスがいるものですね。
文献
1) La Scola B, Audic S, Robert C, Jungang L, de Lamballerie X, Drancourt M, Birtles R, Claverie JM, Raoult D. A giant virus in amoebae. Science. 2003 Mar 28;299(5615):2033.
https://doi.org/10.1126/science.1081867
2)Ogata H, Claverie JM. Microbiology. How to infect a Mimivirus. Science. 2008 Sep 5;321(5894):1305-6.
https://doi.org/10.1126/science.1164839
3) Raoult D, Audic S, Robert C, Abergel C, Renesto P, Ogata H, La Scola B, Suzan M, Claverie JM. The 1.2-megabase genome sequence of Mimivirus. Science. 2004 Nov 19;306(5700):1344-50.
https://doi.org/10.1126/science.1101485
4)Okamoto K, Miyazaki N, Song C, Maia FRNC, Reddy HKN, Abergel C, Claverie JM, Hajdu J, Svenda M, Murata K. Structural variability and complexity of the giant Pithovirus sibericum particle revealed by high-voltage electron cryo-tomography and energy-filtered electron cryo-microscopy. Sci Rep. 2017 Oct 16;7(1):13291.
https://doi.org/10.1038/s41598-017-13390-4
5)Saadi H, Pagnier I, Colson P, Cherif JK, Beji M, Boughalmi M, Azza S, Armstrong N, Robert C, Fournous G, La Scola B, Raoult D. First isolation of Mimivirus in a patient with pneumonia. Clin Infect Dis. 2013 Aug;57(4):e127-34.
https://doi.org/10.1093/cid/cit354
6)La Scola B, Marrie TJ, Auffray JP, Raoult D. Mimivirus in pneumonia patients. Emerg Infect Dis. 2005 Mar;11(3):449-52.
https://doi.org/10.3201/eid1103.040538

