

ごあいさつ 「ウイルス感染予防研究所」発足にあたって
ウイルス感染予防研究所
名誉理事 鈴木 康夫

このたび、「ウイルス感染予防研究所」を設立する運びとなり、皆さまにご挨拶申し上げます。私はこれまで「糖鎖ウイルス学」という新たな学問分野の構築に取り組み、ウイルス感染症におけるウイルスと宿主細胞の分子レベルでの相互作用や、その感染阻害メカニズムを探求してまいりました。これらの研究を通じて、基礎研究にとどまらず、社会実装によって人々の健康に寄与する重要性を深く感じています。
令和3年度に経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)への採択を受けた事を契機に、これまでの研究成果を実用化につなげる具体的な取り組みとして有識者メンバーで組織する“ウイルス感染予防研究所”を設立する運びとなりました。
当研究所の設立は、経済産業省で採択されたウイルス感染予防のための食品素材の開発を推進するとともに、長年のウイルス感染に関する研究成果や学術研究によって得られた様々な科学の力を市民生活に広く活用し、社会全体に貢献することを目的としています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)やインフルエンザのパンデミックの際に認知されたように、ウイルスによる感染症に関しては、国家レベルでのワクチン開発や医薬品の提供といった戦略的な対策と同時に、市民レベルで日常的に実践可能な感染予防対策の両輪が必要不可欠です。当研究所は、この両輪を支える一翼を担い、ウイルス感染症に対する多角的な取り組みを進めてまいります。
具体的には、以下の活動を柱に据えて取り組んでまいります。
- ウイルスや感染に関する情報発信
信頼性の高い情報を広く発信し、市民が適切な予防行動を取れる環境を整えます。 - 糖鎖ウイルス学を応用した感染予防法の開発
感染予防の基礎研究を深化させ、新たな技術や製品の創出を目指します。 - 病原ウイルス感染の予防に役立つ素材や食品、方法の開発
身近な生活の中で取り入れられる実践的な予防策を提供します。 - 産学官連携による基礎研究の推進
国公立研究所や大学との協働を通じて研究基盤を強化します。 - 国際的視野での人類の健康への貢献
グローバルな課題解決に寄与する研究成果を展開します。
私たちは、これらの取り組みを通じてウイルス感染症対策の新たな価値を創出し、国家レベルの戦略的対策と連携しながら、皆さまの健康と安心を支える存在となるよう邁進してまいります。今後とも、「ウイルス感染予防研究所」に温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
ウイルス感染予防研究所
所長 小俣 義明

ウイルス感染予防研究所は、設立の趣旨に則り市民レベルでの感染予防を目指してウイルスをはじめとする様々な感染症に対する基礎研究を進めています。その研究成果をもとに、原材料や製品の開発・提案に取り組み、感染症のリスク軽減を目指しています。また、ウェブサイトを通じてヘルスケア相談を展開し、市民一人ひとりの健康維持や感染予防意識の向上に寄与することを目指しています。
当研究所では、ウイルスや微生物を不活化する効果のあるポビドンヨードを繊維に化学的に固定化する方法を開発しました。その技術を用いて、感染予防機能を持つ不織布フィルターを収めることができるマスクや、抗ウイルス・抗菌効果を備えた防護服の展開に応用され、日常生活や専門分野での感染予防に役立てられています。
多くのウイルスは宿主細胞に感染する際に、細胞の表面に存在する特定の糖鎖を認識して感染するので、同じ糖鎖物質を予めウイルスに作用させると感染力が低下します。この点に着目し、ウイルスが細胞へ感染する際に利用する特定の糖鎖を、社会通念で安全性が確認されている天然素材から、簡便かつ安全基準に準拠した方法により抽出する技術を確立しました。この糖鎖物質を製剤あるいは食品の原料として供給するとともに、市民が日常生活での感染予防を容易にできるように、それらを配合したウイルス感染予防ガムを開発しています。開発過程で、鳥インフルエンザウイルスの感染を強く阻害する糖鎖物質が確認され、養鶏場における鳥インフルエンザの感染予防への応用が期待されています。
これらの研究や科学的根拠に基づいた開発に必須なウイルス試験を行う施設を所内に有し、共同研究やウイルス試験の受託を推進しています。また、公的資金の獲得を目指し、社会全体に還元できる研究の持続的な実施を図ります。共同研究等を通じて若手研究者の育成にも力を入れ、次世代の科学者が活躍できる環境づくりを目指しています。
私たちはこれからも研究を通じて社会に貢献し、市民が安心して暮らせる未来を実現するために全力を尽くしてまいります。