朝起きると口が乾いているのはなぜ?唾液が口の中でしていること
朝起きると口が乾く、口の中がネバネバする――そんな経験はありませんか。
寝る前には気にならなかったのに、どうして朝になると口が乾くのでしょうか。
実は、眠っている間は唾液の分泌量が大きく減ります。さらに、口呼吸や室内の乾燥が重なることもあります。そのため、朝起きると口が乾くと感じやすくなります。
唾液は、食べ物を飲み込みやすくするだけのものではありません。口の中を洗い流したり、歯や粘膜を守ったり、細菌やウイルスなど外から入ってくるものに対する防御にも関わっています。
今回は、朝に口が乾きやすい理由と、普段あまり意識することのない「唾液の仕事」を見ていきましょう。
朝起きると口が乾くのは、睡眠中に唾液が減るから
唾液は一日中、同じ量が出ているわけではありません。
食事をしたり、噛んだり、味やにおいを感じたりすると分泌が増えます。一方、唾液の量には一日の中で変化するリズムがあり、睡眠中には分泌量が大きく低下することが知られています。
つまり、朝起きると口が乾くのは、睡眠中に唾液の分泌量が減っていることが関係しています。
日本歯科医師会も、就寝中は唾液の分泌量が減り、口の中の自浄作用が低下すると説明しています。

口呼吸や部屋の乾燥が重なることも
睡眠中に口が開いていると、口の中を空気が通るため、朝起きると口が乾くと感じやすくなることがあります。
鼻づまりなどによる口呼吸も、朝の口の乾燥に関係します。
部屋の空気が乾燥していることも一因です。
日本歯科医師会では、口呼吸や口を開けたまま眠ることなど、物理的な要因でも口の乾燥が生じるとしています。
ただし、毎朝強い乾燥を感じるからといって、原因が必ず口呼吸とは限りません。
唾液は「口を濡らす」だけではない
唾液というと、食べ物を食べるときに出てくるもの、というイメージが強いかもしれません。
実際には、私たちが意識していない間にも、さまざまな仕事をしています。

食べ物や汚れを洗い流す
唾液は口の中を流れながら、食べ物の残りなどを洗い流しています。
これは「自浄作用」と呼ばれる働きです。
歯みがきをしていない時間にも口の中が一定の状態に保たれているのは、唾液の流れがあるからです。
歯を守る
食事をすると、口の中は酸性に傾きます。
唾液には、その変化を緩やかにする「緩衝作用」があります。また、カルシウムやリンなどを供給し、歯の表面の再石灰化にも関わっています。
そのため、唾液が少ない状態が続くと、むし歯などのリスクが高くなることがあります。
口の粘膜を守る
舌や頬の内側など、口の中の粘膜も唾液によって覆われています。
唾液に含まれる「ムチン」は、粘り気をもつ糖タンパク質です。口の表面を覆って潤滑を助けるほか、口腔内の微生物との相互作用にも関わっています。
唾液は、口の中を単に湿らせているだけではなく、外の環境と体の境目にある口腔粘膜を守る仕組みの一部なのです。
唾液には、外から入ってきたものに対する防御成分もある
口は、食べ物や飲み物だけでなく、さまざまな微生物が入ってくる場所でもあります。
唾液には、さまざまな成分が含まれています。
たとえば、リゾチーム、ラクトフェリン、免疫グロブリン、ムチンなどです。
それぞれ異なる仕組みで、口腔内の環境維持に関わっています。
ここで大切なのは、
「唾液があればウイルス感染を防げる」わけではない
ということです。
感染するかどうかは、ウイルスの種類や量、侵入経路、体の状態など、さまざまな条件によって変わります。
ただ、口の中にある唾液や粘液が、私たちの体の最前線でさまざまな物質と接していることは、感染の仕組みを考えるうえでも重要です。
→ 関連記事
「感染はどこから始まるの?① ウイルスは“空気”じゃなく“ここ”から入る」 記事を読む
唾液の「ムチン」とシアル酸の関係
そして、予防研が研究している「シアル酸」と、唾液にも接点があります。
先ほど登場したムチンは、たくさんの糖鎖を持つタンパク質です。その糖鎖には、シアル酸を含むものがあります。
インフルエンザウイルスは、細胞表面にあるシアル酸を含む糖鎖を認識して結合することが知られています。
一方、細胞の表面だけでなく、唾液や粘液に含まれるムチンにもシアル酸を含む糖鎖があります。
ヒトの唾液を調べた研究では、シアル酸を含む成分とインフルエンザウイルスとの結合が確認されています。
また、2022年には別の研究も報告されています。
唾液中のムチンやタンパク質結合型シアル酸の量と、実験上の抗インフルエンザウイルス活性との関連を調べたものです。
これは「唾液を増やせばインフルエンザを予防できる」という意味ではありません。
むしろ興味深いのは、ウイルスが細胞にくっつく仕組みと、私たちの粘液や唾液に存在する糖鎖との間にも相互作用があるということです。
予防研では、この「ウイルスがシアル酸糖鎖を認識して感染を始める仕組み」を研究しています。
→ 関連記事
「シアル酸糖鎖物質とは?ウイルス感染とのかかわり」
朝の口の乾燥が続くときは?
朝だけ少し口が乾いていて、起きて水分をとったり朝食を食べたりすると気にならなくなる場合もあります。
一方、日中も口が乾く、食べ物を飲み込みにくい、口の中がヒリヒリする、口臭が強くなったと感じるなど、乾燥が続く場合には注意が必要です。
口腔乾燥には、薬の副作用、疾患、生活習慣などさまざまな原因があります。米国国立歯科・頭蓋顔面研究所(NIDCR)も、持続する口腔乾燥について、服用薬やシェーグレン病、糖尿病など複数の原因を挙げています。
日本歯科医師会も、気になる症状が続く場合には歯科医院などへ相談するよう案内しています。
原因を自己判断せず、気になる状態が続くときには歯科医師や医師に相談しましょう。
唾液は、眠っている間も口を守る仕組みの一部
朝起きると口が乾くのは、睡眠中に唾液の分泌量が減ることが大きく関係しています。口呼吸や室内の乾燥などが重なると、乾燥をより強く感じることもあります。
普段はほとんど意識しませんが、唾液には、
- 食べ物や汚れを洗い流す
- 歯を守る
- 食べたり飲み込んだりするのを助ける
- 口の粘膜を覆う
- 口腔内の防御機能に関わる
といったさまざまな役割があります。
そして、その唾液に含まれるムチンの糖鎖には「シアル酸」も存在します。
口の中で起きていることを分子のレベルまで見ていくと、日常的な「朝の口の乾き」から、ウイルスが細胞に結合する仕組みまでつながってきます。
何気なく出ている唾液も、私たちの体と外の世界との境目で働く、大切な仕組みの一つなのです。
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「感染はどこから始まるの?① ウイルスは“空気”じゃなく“ここ”から入る」
参考資料
厚生労働省 e-ヘルスネット「歯・口の機能」
日本歯科医師会「お口のなんでも相談『口腔乾燥』」
日本歯科医師会「お悩み相談!教えて先生|ドライマウス」
National Institute of Dental and Craniofacial Research「Dry Mouth」
Humphrey SP, Williamson RT. A review of saliva: Normal composition, flow, and function.
※睡眠時の唾液分泌については、関連する唾液分泌研究も参照。
Limsuwat N, et al. Sialic acid content in human saliva and anti-influenza activity against human and avian influenza viruses.
Kobayashi Y, et al. Comparison of proteins with anti-influenza virus effects in parotid and submandibular-sublingual saliva in humans.





