ウイルス感染予防研究所は、感染症に対する新しい予防手段の研究開発と、その知見を社会へ届けることを目的として設立されました。
私たちは、ウイルスが細胞へ感染する仕組みに着目し、天然由来のシアル酸糖鎖物質を活用した抗ウイルス製剤や食品素材の研究開発を進めています。また、大学や研究機関との共同研究を通じて、その作用メカニズムや可能性を科学的に探究しています。
感染症対策は、研究室の中だけで完結するものではありません。研究成果を社会へ還元し、一人ひとりが正しい知識を持って行動できる環境をつくることも重要な使命です。
当研究所では、研究開発、産学連携、情報発信を三本柱として、感染症に強い社会の実現を目指しています。
抗ウイルス製剤開発
細胞表面のタンパク質や脂質には数個〜十数個の糖分子がつながった糖鎖が結合していて、その末端は多くの場合に糖の一つであるシアル酸になっています。一方多くのウイルスは、表面のタンパク質が細胞のシアル酸糖鎖と親和性を持つように進化してきました。
そのために、細胞表面の糖鎖は本来は細胞間の接着やシグナル伝達、細胞の分化や免疫機構など細胞の働きに重要な役割を持っていますが、ウイルスが細胞に感染するための足がかりになってしまいます。
ウイルスによって標的とするシアル酸糖鎖に若干の違いがありますが、同じ種類のシアル酸糖鎖物質が細胞以外に存在すると、シアル酸糖鎖物質がウイルス表面のタンパク質に結合して、ウイルスが細胞に感染できなくなります。
このことを利用すると、シアル酸糖鎖物質をいろいろなウイルスの感染を防止する抗ウイルス剤として用いることができます。シアル酸糖鎖物質は母乳や牛乳、鶏卵やツバメの巣、ローヤルゼリーなどに多く含まれますが、野菜などの植物には含まれません。
当研究所では、鶏卵あるいはツバメの巣から食品衛生的に安全な方法で種類の異なるシアル酸糖鎖物質を高収率で抽出する方法を開発しました。
研究所の母体であるダイヤ製薬では、シアル酸糖鎖物質をヒトインフルエンザあるいは鳥インフルエンザの感染を予防する製剤・食品原料や、それを配合して人のインフルエンザウイルスの感染を抑制するガム製剤に応用しています。
インフルエンザウイルスが蔓延する時期やできるだけ感染したくない受験シーズンには、人が混雑する環境でもガムを噛むことでインフルエンザに罹ることを抑制できます。鳥インフルエンザについては、季節に関わらずひとたび感染があると大量の鶏を殺処分することになるので、養鶏場等でシアル酸糖鎖物質を適切に使用することで鳥インフルエンザウイルス感染の予防に展開できます。
共同研究
シアル酸糖鎖物質は、免疫力の向上や美肌効果、さらには育毛の促進など、多方面にわたる有用性が知られています。当研究所では、これらの多彩な作用の中でも特に「抗ウイルス活性」に着目して基礎的な研究に取り組んでいます。ウイルス感染の脅威は社会全体の課題であり、そのリスク低減や新たな予防手段の開発に貢献することを目標としています。その一環として複数の大学と連携し、それぞれの大学では独自の観点からシアル酸糖鎖物質に関する研究を進めていただいています。
たとえば徳島文理大学薬学部生化学研究室では「シアル酸糖鎖物質の抗ウイルス活性」をテーマにインフルエンザウイルスをはじめとするウイルスに対する作用を検証し、そのメカニズムを生物学的観点から解明する研究を進めます。ウイルスの侵入阻害や感染の拡大抑制など、具体的な作用機序を明らかにすることで新たな応用の可能性が広がることが期待されます。
一方、横浜薬科大学薬学部生薬学研究室では「天然物由来シアル酸糖鎖物質の化学的性質」をテーマに各種天然物から抽出したシアル酸糖鎖物質の化学構造を解析し、その違いと生物活性との関連を比較検討してまいります。天然資源を基にした研究成果は、シアル酸糖鎖物質に関する学術的知見を広げ新たな研究領域の創出・発展につながります。
これらの大学との間では技術・情報の相互共有を積極的に行い、共同研究が円滑に進む体制づくりに努めています。今後も抗ウイルス活性をはじめ、シアル酸糖鎖物質の多面的な機能の解明と応用に向け、化学的・生物学的特性をより幅広く探究しながら、さらなる共同研究の拡大や新たな連携先の開拓を視野に入れています。この取り組みにより、社会に役立つ新しい知見や技術の創出に寄与していきたいと考えています。
情報提供
当研究所では、ウイルス学、生化学、有機化学、天然物化学、薬事行政といった多様な専門分野を背景に持つ担当者が、それぞれの専門性を活かして知識と経験に基づいた正確で実用的な情報を提供しています。研究所の活動は専門家向けにとどまらず、一般の方々にも分かりやすく伝えることを重視しており、ホームページではウイルスの感染のみならず、細菌やカビといった身近な微生物による感染についても取り上げています。感染の原因や仕組み、予防方法、日常生活で役立つ実用的な対策などを、多角的な視点から解説することで、誰もが安心して参考にできる情報の提供を心がけています。
さらに当研究所は、研究成果の発信だけでなく、社会と研究者をつなぐ「窓口」としての役割も担っています。感染に関して疑問や不安をお持ちの方からお問い合わせをいただいた際には、メールやホームページを通じて丁寧に対応し、必要に応じて大学の専門研究者をご紹介したり、市民大学や公開講座など学びの場へご案内することもしています。このように、研究者と市民が相互に理解を深められる環境を整え、学術的知見を社会に還元していくことを目指しています。今後も地域や社会から親しみやすい研究所として、感染への理解を幅広く深め、安心して暮らせる社会づくりに貢献してまいります。