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鼻水は邪魔なものだけじゃない?鼻の粘液が異物を外へ運ぶ仕組み

鼻水の役割と鼻の粘液が異物を運ぶ仕組み

鼻水というと、風邪をひいたときに量が増え、わずらわしく感じることがあるかもしれません。
けれど、鼻の粘液には、空気と一緒に入ってきた異物をキャッチし、排出する大切な役割があります。

鼻の粘液には、異物をキャッチする働きがあります。空気と一緒に入ってきたゴミやウイルスなどを、体の中に入り込む前に流し去ります。

それでは、鼻や気道の粘液を分子の世界まで見てみましょう。そこには、ウイルス感染と深く関わる「シアル酸糖鎖」という構造があります。

身近な鼻水から、私たちの体に備わる防御の仕組みと、ウイルスが感染を始める仕組みを見ていきましょう。

鼻水の役割は、異物をキャッチして流すこと

「鼻水」というと、風邪や花粉症のときに流れてくるものを思い浮かべますが、鼻の中は普段から湿った粘膜で覆われています。

私たちは呼吸をするたびに、空気だけを吸っているわけではありません。ほこりなどの異物や、さまざまな微生物が一緒に入ってくる可能性があります。

鼻の粘液には、こうした異物をキャッチし、流し去る働きがあります。

つまり鼻は、単なる「空気の通り道」ではありません。外から入ってきたものと最初に接する、体を防御する最前線のひとつでもあるのです。

厚生労働省も、空気が乾燥すると気道粘膜の防御機能が低下するとして、急性呼吸器感染症への対策として適度な湿度を保つことを挙げています。


鼻の粘液に捕まった異物はどうなる?

鼻の粘液に異物が付着すると、粘液とともに鼻水などとして排出されます。

私たちの体には、外から入ってきた異物をキャッチし、そのまま体内へ侵入させないための仕組みが備わっています。

ただし、粘液があるからといって、すべてのウイルスを排除できるわけではありません。

鼻やのどの粘膜は、異物をキャッチする場所ですが、一方でウイルスが細胞に結合し、感染が始まる場所にもなります。

粘膜は体を守る場所であると同時に、感染の入り口にもなり得る場所なのです。

目・鼻・口と粘膜の関係については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。

関連記事:感染はどこから始まるの?③ 目・鼻・口、どこが一番危ない?


鼻水の役割を小さな世界で見ると「糖鎖」が見えてくる

ここから、少しだけ小さな世界を見てみましょう。

私たちの細胞表面や体液中には、「糖鎖」があります。糖が鎖のようにつながった構造です。

その糖鎖の末端に存在するもののひとつが、シアル酸です。

シアル酸を含む糖鎖は細胞の表面だけでなく、粘液などの体液中にも存在します。

普段目にしている鼻水と、ウイルス感染の仕組み。一見すると別々の話のようですが、この「シアル酸糖鎖」に注目すると、両者の関係が見えてきます。

粘液などに存在する糖鎖と末端のシアル酸のイメージ

インフルエンザウイルスはシアル酸糖鎖に結合する

インフルエンザウイルスの表面には、HA(ヘマグルチニン)というたんぱく質があります。

HAには、シアル酸糖鎖を認識して結合する性質があります。

インフルエンザウイルスは、シアル酸糖鎖に結合します。このとき、シアル酸糖鎖は受容体として働きます。「受容体」とは、ウイルスが細胞にくっつく際の足がかりとなる構造のことです。予防研の研究ページでも、インフルエンザウイルスが口腔・鼻腔・気道などの細胞表面にあるシアル酸含有糖鎖へ結合して感染を開始する仕組みを解説しています。

一方、粘液中にもシアル酸を含む糖鎖が存在します。インフルエンザウイルスのHAが粘液中のシアル酸糖鎖に結合すると、細胞表面の受容体へ結合する前にウイルスが捕捉され、感染成立を妨げる側に働きます。

ただし、インフルエンザウイルスにはNA(ノイラミニダーゼ)もあります。NAはシアル酸を切断するため、ウイルスは粘液中のシアル酸糖鎖との結合から離れ、移動することができます。

つまり、粘液中では「シアル酸糖鎖がウイルスを捕捉する働き」と、「ウイルスがNAを使ってそこから離れる働き」の両方が関わっています。

粘液中のシアル酸糖鎖がウイルスを捕捉する働きはありますが、ウイルス側にもそこから離れる仕組みがあります。


「シアル酸にくっつく」性質を、逆に利用できないか

ここまで見てくると、もうひとつの発想が生まれます。

インフルエンザウイルスがシアル酸糖鎖を認識して結合するのであれば、細胞に到達する前に、別のシアル酸糖鎖へ先に結合させることはできないだろうか、という考え方です。

予防研では、この「ウイルスがシアル酸糖鎖に結合する」という性質に着目した研究を進めています。

鶏卵などの天然素材から得られるシアル酸糖鎖物質を、ウイルスに対する「疑似受容体」として利用する研究です。

分かりやすくいえば、別のシアル酸糖鎖物質を「おとり」として使う考え方です。ウイルスが細胞表面へ結合する前に、先にシアル酸糖鎖物質へ結合させることを目指します。予防研では、天然由来のシアル酸糖鎖物質を利用した感染阻害素材の開発を進めています。

ここで大切なのは、鼻水そのものを再現した研究ではないということです。

鼻や気道の粘液にも、シアル酸糖鎖は存在します。一方、予防研では天然素材から得たシアル酸糖鎖物質を研究しています。両者を同じものとして扱うことはできません。

共通しているのは、「ウイルスがシアル酸糖鎖を認識して結合する」という性質です。

シアル酸糖鎖物質とウイルス感染の関係について詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。

関連記事:シアル酸糖鎖物質とは?ウイルス感染とのかかわり

シアル酸糖鎖物質を疑似受容体として利用する研究の仕組み

まとめ|鼻水の役割から、感染の入り口を考える

普段はわずらわしく感じることもある鼻水ですが、鼻水の役割を見ていくと、鼻の粘液が体を守る仕組みの一部であることが分かります。

鼻の粘液は、外から入ってきた異物をキャッチし、流し去る働きを持っています。

そして分子の世界まで見ていくと、粘液や細胞表面に存在する糖鎖、その末端にあるシアル酸と、ウイルスとの関係が見えてきます。

インフルエンザウイルスはシアル酸糖鎖を認識して結合します。予防研では、その性質に着目し、シアル酸糖鎖物質を感染予防へ応用する研究を進めています。

身近な鼻水の役割を知ることは、ウイルスがどこに近づき、どのように感染を始めるのかを理解する入り口にもなります。


関連記事

感染はどこから始まるの?① ウイルスは“空気”じゃなく“ここ”から入る
感染はどこから始まるの?③ 目・鼻・口、どこが一番危ない?
シアル酸糖鎖物質とは?ウイルス感染とのかかわり

参考資料

厚生労働省「急性呼吸器感染症(ARI)に関するQ&A

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