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地球上には何個のウイルスが存在するのか / 静岡県立大学名誉教授 鈴木 康夫

地球と海、土壌、植物に重ねて、さまざまなウイルスを描いたイメージ

病原体だけではない、地球の生態系を支える見えない存在 / 静岡県立大学名誉教授 鈴木 康夫

私たちは「ウイルス」と聞くと、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなど、病気の原因になるものを思い浮かべます。しかし、研究が進むにつれ、人に病気を起こすものはウイルス全体のごく一部に過ぎず、ウイルスは地球上のあらゆる環境に存在し、生態系を支える重要な役割を果たしていることが解分かってきました。

(静岡県立大学名誉教授 鈴木 康夫)

地球上のウイルスは約10³¹個規模

現在の研究では、地球上には約10³¹個規模のウイルスが存在すると考えられています。これは1の後ろに0が31個並ぶ数で、日本の数の単位では約1000穣(じょう)*に相当します。

宇宙には無数の星(恒星)があると言われますが、2003 年にオーストラリアのシドニーで開催された国際天文学連合の総会では、観測可能な宇宙に約7×10²²個(7の後ろに0が22個)の星があるという推定が発表されました(1)。日本の数の単位では、約700垓(がい)* です。地球におけるウイルスの推定数は、この星の推定数をはるかに超えるものです。


海洋の観測から推定するウイルスの数

この推定を考える手がかりの一つが、Curtis A SuttleによるViruses in the Seaという総説です(2)。この研究では、海洋全体の体積と海水中のウイルス密度から計算し、海洋だけで約4×10³⁰個のウイルスが存在すると推定されました。

海水1mLの中には通常数百万から数千万個のウイルス(海洋中の細菌に感染するバクテリオファージなど)が存在しており、それを海全体に当てはめると、このような莫大な数になります。

さらに、土壌、湖沼、河川、地下深部、動植物や人間の体内などに存在するウイルスも考慮すると、地球全体では約10³¹個規模になると考えられています(2,3)。

ただし、この数字は実際に数えたものではありません。さまざまな環境で測定した値から推定されたものであり、「10³⁰~10³¹個程度の規模」という桁の目安として捉える必要があります。


海にウイルスが多い理由

海洋には、細菌、古細菌、植物プランクトン、小さな動物プランクトンなどの微生物が大量に生息しています。ウイルスは自分だけでは増殖できません。生きた細胞に感染し、その細胞の仕組みを利用して増殖します。そのため、宿主となる微生物が豊富な海洋は、ウイルスにとって非常に住みやすい環境なのです[3]。

海洋ではウイルスの数が細菌などの原核生物の数の約10倍に達する例が知られています(3)。そのため海は、私たちの目には見えなくても「ウイルスに満ちた世界」といえます。


海の物質循環を支えるウイルス

ウイルスに感染した微生物の細胞が壊れ、有機物などが海水中に戻り、ほかの微生物に利用される流れ

ウイルスの中には、宿主の細胞に感染し、増殖の過程で細胞を壊すものがあります。このため、悪い存在のように思われるかもしれません。しかし自然界では、その働きが重要な意味を持っています。

細菌や植物プランクトンがウイルスによって壊されると、細胞の中にあった炭素、窒素、リンなどの栄養分が海水中へ戻されます。すると別の微生物がそれを利用し、生態系の中で物質が循環するようになります(4)。この仕組みは「ウイルス・シャント(viral shunt)」と呼ばれています。

ウイルスによる感染は、一部の微生物が増えすぎるのを抑え、海洋の生物群集のバランスに影響を与えると考えられています。つまりウイルスは、海の環境の維持にも関わる存在であるのです。


生物とウイルスの違い

現在の生物学では、細胞を持つ生命は次の細菌、古細菌、真核生物という3つのドメインに分類する考え方が広く用いられています。それぞれ、細菌(Bacteria)、古細菌(Archaea)、真核生物(Eukarya)と呼ばれます。真核生物には人間を含む動物、植物、菌類などが含まれます。

一方、ウイルスは、細胞を持たず、自分だけではエネルギーを生み出す代謝を行えず、宿主なしでは増殖できない という特徴があります。そのため通常は生物の3ドメインには含まれず、「生命と非生命の境界にある存在」として扱われています。

興味深いことに、3つのドメインのいずれにも、それぞれを宿主とするウイルスが存在します。すなわちウイルスは、幅広い生命系統を宿主とする生物学的実体であり、生態系の重要な構成要素とも言えるのです。この事実は、ウイルスが生命史の極めて早い段階から存在し、生物進化と密接に関わってきたことを示唆しています。

細胞からなる生物とウイルスの構造・エネルギー利用・増え方の比較。ウイルスは細胞を持たず、感染した宿主の細胞を利用して増える。

細菌や古細菌と比べても多いウイルス

地球上の細菌と古細菌の総数は、1998年の研究でおよそ(4~6)×10³⁰細胞と推定されています(5)。一方、ウイルスは10³¹個規模と考えられています(2,3)。どちらも推定値ではありますが、ウイルスは細菌や古細菌と同程度か、それ以上の数で存在している可能性が高いと考えられています。

私たちは動物や植物に目を向けがちですが、数の上では地球は微生物とウイルスの世界なのです。


生物の進化にも関わるウイルス

ウイルスにはもう一つ重要な役割があります。それは遺伝子を運ぶことです。ウイルスが細胞に感染する過程で、ある生物の遺伝子が別の生物へ移ることがあります。これのように、親から子への遺伝以外の経路で遺伝子が移ることを「遺伝子水平伝播」と呼びます。

この現象は、生物の進化を促す重要な仕組みの一つと考えられています(3)。つまりウイルスは、病気を起こすだけでなく、生物の進化そのものにも影響を与えてきた可能性があるのです。


ウイルスの個数と種類数は別の問題

「何個いるか」と「何種類いるか」は別の問題です。国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses、ICTV)が正式に認定しているウイルス種は2026年3月公表のMSL41(2025年版)では17,554種です(7)。

しかし実際には、それよりはるかに多い種類が存在すると考えられています。2018年の研究では、哺乳類と鳥類を宿主とする主要な人獣共通感染症関連のウイルス科には、未知のウイルスが約167万種あると推定されました(6)。

海洋や土壌のウイルスまで含めれば、実際の種類数は数百万から数千万種以上に達する可能性があると言われています。ただし、地球全体の種類数はまだ確定していません。


おわりに

私たちはふだん、地球を人間や動物、植物が暮らす世界として見ています。しかし科学の目で見ると、そこにはまったく別の姿が見えてきます。

海洋だけでも約4×10³⁰個、地球全体では約10³¹個規模のウイルスが存在すると考えられています(2,3)。その大部分は、人に病気を起こすものではありません。むしろ微生物の数を調節し、海や土壌の栄養循環を支え、生物の進化にも関わっています。

私たちの目には見えませんが、地球は人間だけの惑星ではありません。微生物とウイルスが織りなす巨大な生命システムの上に、私たちの社会も成り立っているのです。

静岡県立大学名誉教授 鈴木 康夫


参照

脚注

日本で使われている数字の桁の呼び方は、4桁ごとに「万」「億」「兆」「京」と進むのが基本です。

一(いち)、万(まん)10,000、億(おく)100,000,000、兆(ちょう)1,000,000,000,000、京(けい)10,000,000,000,000,000、
垓(がい)1の後に0が20個、秭(じょ)1の後に0が24個、穣(じょう)1の後に0が28個、
溝(こう)1の後に0が32個、澗(かん)、1の後に0が36個、正(せい)1の後に0が40個、
載(さい)                          1の後に0が44個、極(ごく)1の後に0が48個、
恒河沙(ごうがしゃ)1の後に0が52個、阿僧祇(あそうぎ)1の後に0が56個、 那由他(なゆた)1の後に0が60個、不可思議(ふかしぎ)          1の後に0が64個、無量大数(むりょうたいすう)1の後に0が68個。

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