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カビやバクテリアの感染予防 / 寄稿 横浜薬科大学客員教授 小俣 義明 

カビの枝分かれした菌糸と胞子、棒状・球状・らせん状の細菌を水彩調で描いたイメージ。

細菌との違いを知り、湿気対策・手洗い・食品管理に生かす / 横浜薬科大学客員教授 小俣 義明氏による寄稿

はじめに

ウイルスとともに感染に注意したいのが、カビとバクテリア(細菌)です。

カビもバクテリアも目には見えない小さな生き物ですが、私たちの身の回りにたくさん存在しています。これらは自然界の中で重要な役割を果たしており、食品の発酵や分解など、私たちの生活にも深く関わっています。

一方で、カビやバクテリアの中には、人間の体に入り込んで病気を引き起こすものもあります。そのため、これらの微生物がどのような特徴を持ち、どのように増えていくのかを知ることは、感染を予防するうえで重要です。

カビとバクテリアは、どちらも非常に小さな生き物ですが、生物としての仕組みが大きく異なります。それぞれの特徴や違いから見ていきましょう。

(横浜薬科大学客員教授 小俣 義明氏による寄稿)


カビとバクテリアの違い

カビとバクテリアの最も大きな違いは、細胞のつくりです。

カビは、キノコや酵母と同じ仲間で、「真菌(しんきん)」と呼ばれる生物です。細胞の中に「核」と呼ばれる部分があり、その中に生物の設計図であるDNAが入っています。細胞を見た場合には私たちと良く似ています。

一方、バクテリアは「細菌」とも呼ばれ、カビとは異なる生物の仲間です。細胞の中に核がなく、DNAは細胞の内部にそのまま存在していて、私たちの細胞とは全く異なります。

このように、カビとバクテリアは、どちらも細胞からできている生物ですが、その細胞のつくりには大きな違いがあります。

カビバクテリア
生物の仲間真菌 細菌
細胞の中の核あるない
細胞の大きさ比較的大きい(一般に数〜数十μm)比較的小さい(一般に0.2〜数μm)
主な増え方菌糸を伸ばす、胞子をつくる細胞が2つに分かれる
代表的な形糸状、綿毛状など丸い形、棒状など
代表例コウジカビ、アオカビなど大腸菌、乳酸菌など

こうした細胞の違いは、それぞれに効果のある薬剤や消毒方法にも関係しています。


カビの形と増え方

多くのカビは、糸のような形をした部分を伸ばしながら成長します。

この糸のような部分を「菌糸(きんし)」といいます。菌糸は枝分かれしながら広がり、たくさん集まることで、カビ特有の綿毛のような見た目になります。

例えば、パンや餅などに生える白色や緑色のカビや、食品の表面に見られる青色や黒色のカビは、この菌糸が広がったものです。

食パンの表面に青緑色のカビが斑点状に広がっている様子。
カビの生えた食パン
カビの長い柄の先端に球状に密集した胞子と、周囲に散らばる胞子を写した顕微鏡写真。
クロコウジカビの菌糸
CDC Public Health Image Library, PHIL 23077

カビは、菌糸を伸ばして成長するだけでなく、「胞子(ほうし)」と呼ばれる小さな粒子をつくって増えることもあります。

カビの胞子は非常に小さくて軽く、種類によっては空気の流れに乗って遠くまで運ばれます。そして、食品や壁、床などに付着し、温度や湿度などの条件が整うと、そこから新しいカビが成長します。

つまり、目に見えるカビを取り除いても、周囲に胞子が残っていれば、再びカビが発生する可能性があります。

このことから、カビの発生を防ぐためには、目に見えるカビを取り除くだけでなく、湿気を減らし、カビが増えにくい環境をつくることが重要です。


バクテリアの形と増え方

バクテリアは、基本的に1つの細胞だけでできている小さな生き物です。

カビのように糸状に広がることはなく、主に1つの細胞が2つに分かれることで増えていきます。この増え方を「分裂」といいます。

1個の細菌が2個になり、それぞれがさらに2個ずつに分かれると、4個、8個、16個というように増えていきます。

種類や環境によっては、非常に短い時間で数が増えます。特に、温度や水分、栄養などの条件がそろうと、急速に増殖することがあります。 バクテリアには、丸い形をしたもの、棒のような形をしたもの、らせん状のものなど、さまざまな種類があります。

棒状の細菌(桿菌)が並ぶ様子を捉えた着色電子顕微鏡写真。
大腸菌 O157:H7
CDC Public Health Image Library, PHIL 10071
球状の細菌(球菌)がぶどうの房のように集まっている様子を捉えた着色電子顕微鏡写真。
黄色ブドウ球菌
CDC Public Health Image Library, PHIL 617

また、一部のバクテリアには、厳しい環境でも生き残るための特別な仕組みがあります。

それが「芽胞(がほう)」と呼ばれるものです。

芽胞は、細菌が乾燥や熱などの厳しい環境から身を守るためにつくる、非常に丈夫な構造です。芽胞になった細菌は、通常の細菌よりも熱や消毒薬に強く、長い間生き残ることがあります。

例えば、土の中やほこりの中に存在する細菌の中には、この芽胞をつくるものがあります。

ここで注意したいのは、カビの胞子と細菌の芽胞は、同じものではないということです。

カビの胞子は主に新しい場所に広がって増えるためのものですが、細菌の芽胞は厳しい環境を乗り越えて生き残るためのものです。

この違いは、消毒や殺菌を考えるうえでとても重要です。


カビとバクテリアの感染予防

カビとバクテリアの中には、人間の体に入り込んで病気を引き起こすものがあります。

ただし、すべてのカビやバクテリアが人間に害を与えるわけではありません。私たちの身の回りには、食品や薬品をつくることに役立っているものや、病気を引き起こさないものもたくさん存在しています。

かつてはアオカビから、細菌の増殖を抑える働きを持つペニシリンが発見されました。2015年にノーベル賞を受賞された大村智先生は、放線菌という細菌の仲間がつくる物質から、寄生虫の病気に効く薬であるイベルメクチンの開発につながる研究を行いました。

カビとバクテリアでは、増え方や生き残る方法が異なるため、感染予防の方法にも違いがあります。

カビには湿気対策が重要

カビは、湿気の多い場所で増えやすいという特徴があります。

例えば、浴室、洗面所、エアコンの内部、結露した窓の周辺などは、カビが発生しやすい場所です。そのため、カビの発生を防ぐには、部屋の換気や除湿を行い、湿気をためないことが大切です。

また、カビは胞子を空気中に飛ばして広がることもあるため、カビが発生している場所を放置せず、適切に取り除くことも重要です。

カビによる感染を防ぐためには、次のような対策が大切です。

・足や体を清潔に保ち、皮膚を乾燥させる。  

・靴や靴下を清潔にし、湿気がこもらないようにする。

・家族などに水虫の人がいる場合は、足ふきマットやスリッパなどの共用に注意する。

・浴室や室内の換気を行い、カビの発生を防ぐ。

・カビが大量に発生している場所では、胞子を吸い込まないように注意する。

バクテリアには手洗いや食品管理が重要

バクテリアは、食品や水、手指、調理器具などを通じて人間の体に入ることがあります。

特に、食中毒を引き起こす細菌は、食品の中で増えることがあるため、食品の保存方法や加熱方法に注意する必要があります。

例えば、肉や魚などは十分に加熱し、調理した食品を長時間室温に放置しないことが大切です。

また、手洗いを徹底することで、手指を通じた細菌の広がりを防ぐことができます。

バクテリアによる感染を防ぐためには、次のような対策が重要です。

・食事の前やトイレの後には、石けんで手を洗う。

・食品は十分に加熱する。

・調理器具や食器を清潔に保つ。

・傷口を清潔にし、必要に応じて保護する。

・咳やくしゃみをするときは、マスクやティッシュなどで口と鼻を覆う。

このように、カビとバクテリアでは、感染する場所や方法が異なるため、それぞれに合った予防対策が必要です。


消毒薬の効果にも違いがある

カビとバクテリアでは細胞のつくりが違うため、消毒薬に対する強さも異なります。

例えば、アルコールは多くの細菌や一部の真菌に効果がありますが、すべての微生物に効果があるわけではありません。特に、細菌の芽胞は非常に丈夫なため、一般的なアルコール消毒では十分でないこともあります。

また、カビについても、種類や状態によって消毒薬の効果が異なります。

そのため、消毒を行う際には、どのような微生物を対象としているのかを考え、適切な方法を選ぶことが重要です。


まとめ

カビとバクテリアは、どちらも目には見えない小さな生き物ですが、細胞のつくりや増え方、生き残る方法には大きな違いがあります。

感染予防の観点では、カビに対しては湿気を減らすことと、胞子が広がらないようにすることが重要です。ただし、室内の湿度を下げすぎると、空気中の胞子やウイルスの飛沫に含まれる水分が蒸発して小さな粒子になり、長時間空気中に漂いやすくなる場合があります。また、空気が乾燥すると、鼻や喉の粘膜の働きが低下し、ウイルスに感染しやすくなる可能性もあります。そのため、カビの発生を防ぎながら、室内が過度に乾燥しないように湿度を管理することが大切です。

一方、バクテリアに対しては、手洗いや食品の加熱、調理器具の清潔な管理などが重要になります。これらは、ウイルスの感染を予防することにもなります。 このように、微生物は種類によって性質や弱点が異なります。それぞれの特徴を正しく理解し、適切な対策を行うことが、私たちの健康を守り、感染症を予防するために大切です。

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